2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

焼夷弾の燃えかす

植草甚一の1945年5月23日の日記の引用から始めてみたい。 二十五、六日頃に空襲があるという専らの風評も馬耳東風、ところが一時半から三時半にかけて、大分やって来て、だいぶ焼夷弾を落としたが、僕は往来で約十キ撃墜キを見た、一所懸命で見た、新…

無題

因徹は揺らめく炎を見ていた。ときたま木片が火花とともに爆ぜる音が微かに聞こえる。その音は、まるで何かに生き急いでいるようにも彼には思われた。 天保六年七月某日、赤星因徹は数日後に迫った松平家碁会に臨み某真言宗寺院堂内にて不動護摩供を修してい…

他者、目玉、あるいは幽霊

哲学の書物は、一方では、一種独特な推理小説でなければならず、他方では、サイエンス・フィクション[知の虚構]のたぐいでなければならない (「差異と反復」ドゥルーズ) コルタサルに「占拠された屋敷」と題された奇妙な短編がある。或る兄妹が見えない…