『闇の自己啓発』&仕事履歴

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『闇の自己啓発』という本が出ます。僕を含めた四人による共著です。

闇の自己啓発

闇の自己啓発

江永泉氏(江永泉 (@nema_to_morph_a) | Twitter)が主催する「闇の自己啓発会」(Dark Self-Enlightenment parties)という読書会の記録を収めたnote記事が元になっています。書籍化にあたり、加筆修正&(脚注の役割を遥かに逸脱した)脚注の追加が成されています。
note.com

読書会はnote記事の段階ですでに尋常を逸脱していた。それは記事の編集プロセスについても言える。この読書会ではテープレコーダーが用いられることは一度としてなかった。声は記録されず、各々が発したフレーズや言葉の断片を、ひでシス氏が自身のThinkPadに逐一打ち込んでいくのだ。もちろんそれは文字起こしのようなものでは一切なく、読書会のあとに残されるのは、切れ切れの言葉や固有名詞やフレーズの散逸されたフラグメント、その堆積でしかなかった。私たちは、Googleドキュメントで共有されたそれら破片の集積をもとに、行われた読書会を再構成しようと試みた。もちろん、その試みは予め失敗を、破綻を徴づけられている。存在しない語りが付け加えられていった。反対に、語られたはずなのに書かれることなく記憶の彼方に消えていった言葉たちも存在する。加筆と追記は新たな加筆と追記を呼び、収拾のつかなくなったテクストは肥大と変形を重ね、あの日に起こったはずの、出来事としての読書会からかけ離れた、異形のテクストが生成された。
それは、言うなればドゥルーズガタリが『アンチ・オイディプス』の中で言及した、アンリ・ミショーが記述する、スキゾフレニーが制作する(欲望機械による)机の生産プロセスの様子を想起させるものだったかもしれない。

驚くべきことに、この机は単純ではないが、かといってそれほど複雑でもなかった。つまり始めから複雑だったり、意図的に、あるいは計画的に複雑であったりしたわけではない。むしろ、加工されていくにつれて、この机は単純ではなくなってきたのだ。……この机はそれ自身としては、いくつもの付加物のある机であった。ちょうど、分裂症者の描くデッサンが詰め込み過ぎといわれるように。この机が完成するとすれば、それはもう何もつけ加えるてだてがなくなったときである。この机はだんだんいろんなものが積み重ねられ、それはますます机でないものになっていった……。[……]それは例外的な家具のようなもの、誰も何の役に立つのか分からない未知の道具のようなものだった。
ドゥルーズガタリ『アンチ・オイディプス 上』宇野邦一訳、河出文庫、二三〜二四頁)

誰も何の役に立つのか分からない未知の道具、人間と無関係の机……。私たちが組み上げた異様なテクストもまた、そのような代物であったかもしれない。だがミショーの机の例と異なるのは、私たちは常に「複数」であったことだ。そう、それはどこまでも集団作業であった。各々の回路が配線され、それらは交差し、フィードバックし、モジュール化し、そこからまた新たな、見たことのない回路が組み上げられていった。「闇の自己啓発」とは畢竟、そのような営みに他ならなかった。そして、そのような営みから成る本書『闇の自己啓発』も、「誰も何の役に立つのか分からない未知の道具のようなもの」として、しかしだからこそ、他ならないあなたに使われる道具として、あなたの回路と接続されるものとして、つまりはそのようなものとして在る。


仕事履歴
以下では二〇一九年五月以降の著作活動履歴をまとめておきます。それ以前の履歴については前回の記事『ニック・ランドと新反動主義』 & 最近の仕事と活動 - Mal d’archiveを参照してください。

■WEB原稿
・「現代ビジネス」or「現代新書」
gendai.ismedia.jp
gendai.ismedia.jp
gendai.ismedia.jp
gendai.ismedia.jp

・その他
www.bookbang.jp
i-d.vice.com
tokion.jp
sb-rs.com
fnmnl.tv

・WEB連載
失われた未来を求めて」第一回〜第十回(連載中)
www.daiwashobo.co.jp
「ビューティフル・ハーモニー」01(第二回)〜08(第九回)(連載中)
s-scrap.com

■商業誌

・『現代思想

現代思想2019年11月号 特集=反出生主義を考える』所収 「生に抗って生きること――断章と覚書」
www.seidosha.co.jp
現代思想2020年5月号 緊急特集=感染/パンデミック』所収 「戦争・権力・感染」
www.seidosha.co.jp
・『ユリイカ

ユリイカ2019年12月号 特集=Vaporwave』所収 「未来のユートピア的ノスタルジー的遠方――ヴェイパーウェイヴは代替現実の夢を視る」
www.seidosha.co.jp
ユリイカ2020年5月臨時増刊号 総特集=坪内祐三』所収 「ささやかな「カミ」に触れる――坪内祐三試論 」
www.seidosha.co.jp
ユリイカ2020年8月号 特集=今 敏の世界』所収 「夢を取り戻すことを夢見て――今 敏の分身(ダブル)」
www.seidosha.co.jp
ユリイカ2020年12月号 特集=偽書の世界』所収 「薔薇十字、ボルヘス、インターネット」
www.seidosha.co.jp

・その他

『kotoba 2020年冬号』所収 「共存に愛は必要か」
kotoba.shueisha.co.jp
『小説 野性時代 第198号 2020年5月号』所収 Column「「最後の一行」を求めて」www.kadokawa.co.jp
表現者クライテリオン (2020年5月号)』所収 「没落する西洋と躍進する中国 ――中華未来主義とは何か」
www.kinokuniya.co.jp
『読書人の雑誌 本 2020年 6月号』所収 「日本にとって「暗黒啓蒙」とは何か」


『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』所収 「統治・功利・AI アフターコロナにおけるポストヒューマニティ」
www.kawade.co.jp
『BLACK LIVES MATTER: 黒人たちの叛乱は何を問うのか』所収 「ダークの系譜:ヨーロッパ新右翼から暗黒啓蒙へ」
www.kawade.co.jp
『S-Fマガジン2020年8月号』所収 「この世界、そして意識 反出生主義のユートピア(?)へ」
www.hayakawa-online.co.jp
『S-Fマガジン2021年2月号』所収 【連載】「さようなら、世界 〈外部〉への遁走論」第一回「精神史のジャンクヤードへ」
www.hayakawa-online.co.jp
『文藝 2021年春季号』所収 「さようなら、いままで夢をありがとう」&「身体と精神改造のための闇のブックガイド」(闇の自己啓発会)
www.kawade.co.jp


■序文or解説
エヴァン・ラトリフ著『魔王──奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』所収 「解説/不可視の帝国」
www.hayakawa-online.co.jp
ニック・ランド著『暗黒の啓蒙書』所収 「序文/『暗黒の啓蒙書』への「入口」」
bookclub.kodansha.co.jp

■その他&同人誌
『DAWN N°1.5 Survival Issue』所収 「#STAYHOME100」&「サイケデリックの嗜み」
dawntokyo.buyshop.jp
『感傷マゾvol.03 架空のノスタルジー特集号』所収 「『さよならを教えて』についてお話させていただきます」
booth.pm
『インターネット2』所収 「夢を見ながら歩き続けなければならない」
booth.pm
『インターネット2 VOL.2 アンダーグラウンドへの憧憬』所収 「LSDと私」&「にゃるら×木澤佐登志対談」
booth.pm